
5フォースとは何か
工務店の経営相談をしていて一番多いのが「住宅のクオリティは負けていないはず。でも利益が上がらない。差別化できない。価格競争になる。」という悩みでです。なぜ「差別化できていると思っているのに、外からは差別化して見えていない」現象が起きるのか。それは多くの工務店が“内側だけ”の議論に寄りすぎているからです。理念・技術・素材・職人・性能改善・自社のこだわり、もちろんそれは経営の中核だし重要です。しかし市場で勝てるかどうかは外部環境の力の総合バランスで決まる部分もあります。その外部環境の「力」を分析するフレームを5フォースモデルといいます。5フォースモデルは、5つの力が自社の利益率を圧迫する強さを分析する思考です。
1)既存競合
2)新規参入の脅威
3)代替品の脅威
4)買い手(顧客)の交渉力
5)売り手(取引先)の交渉力
工務店経営も、この5つの「圧力」は無視できません。ここを盲点のまま放置した経営は、自動的に赤字体質になります。

工務店に落とし込むと、こう見える
①既存競合
住宅会社、地域工務店、設計事務所、大手ハウスメーカー、ローコスト、デザイン工務店競合が多すぎる。しかも言語では似た言葉を使う。「自然素材」「高性能」「デザイン」「地元密着」「職人品質」ほぼ誰もが言う。→言語だけ競争すると“比較可能”になる。結果、価格競争へ。
②新規参入の脅威
実は工務店業界は参入障壁が低い。事業者数を押し上げる力は強い。→人口減でも事業者数は簡単に減らない。利益率は構造的に薄い。
③代替品の脅威
規格住宅、建売、マンション、中古+リノベ、性能特化ブランド、工務店フランチャイズ→価値の軸が既に増えている。「自由設計」だけでは差別にならない。
④買い手(顧客)の交渉力
情報の非対称性が崩壊した。比較サイト、SNS、YouTube施主アカウント、専門職出身施主…顧客は高解像度化している。→“なぜその価格なのか”の説明責任が強化されている。
⑤売り手(取引先)の交渉力
大工不足、職人不足、資材メーカーの値上げ、物流コスト→調達コストは自社努力だけではどうにも調整範囲が小さい。

5フォースモデルの活かし方
5フォースの本質は「外部環境の強さは変えられない。変えられるのは自社の戦い方」という経営視点を持つためのモデルです。
活かし方①:自社の戦う“市場の角度”を変える
5フォースが強い場所で戦わない。参入障壁を自分で設計する。たとえば1〜3階建住宅専門 → 小規模変形敷地の第一人者1,500万円台の小さな家×余白の庭 → 生活設計寄りブランド性能だけでなく「体感+習慣設計」まで扱う暮らしブランドなど競合比較されにくい領域をつくる。
活かし方②:顧客の交渉力を逆転させる「納得設計」
顧客の情報優位は止められない。だから隠さず、逆にフレーム化し、「選び方」を教える側に回る。→顧客の思考プロセスをリードできるブランドは強い。→「なぜこの家の金額は適正なのか」を言語化できると、値引き圧力が下がる。
活かし方③:売り手側の力を弱める「共同生産の関係構築」
職人を“外注管理対象”ではなく“共創パートナー”に変える。これはブランド設計そのものでもある。施工品質の根幹を共有することで、供給側の参入障壁を自社側に構築できる。

外部環境を読める化する
5フォースモデルは、工務店経営にこそ効く「外部視点の思考フレーム」です。差別化は「自社の内部」だけでは成立しません。外部と自社の関係構造から、どこで戦うかを設計して初めて成立する。どの切り口で戦うのか。どの価値観で顧客とつながるのか。どの領域では競争しないのか。どこで利益を守るのか。5フォースで外部環境を“読める化”し、「勝ちポイント」を再設計する。それがこれからの工務店のブランド戦略です。