ブランディングとは「普通の名前」を「特定の名前」に昇華させること

ブランディングとは、単なる名称や商品を「特別な存在」に変えるプロセスです。世の中には無数の商品やサービスが存在します。ですが、その中で「特定の名前」として認知されるブランドはごく一部です。例えば、「スマートフォン」と聞いたとき、多くの人が「iPhone」を思い浮かべます。これは、Appleが長年にわたってブランド価値を高め、競争相手と差別化を図ってきた結果です。単なる「スマートフォン」ではなく、「iPhone」という特定の名前が、消費者の頭の中に強く刻まれています。
強力なブランドを構築したいと思うなら、顧客の中に強力な認識を築き上げなければなりません。強力な認識は、ブランド名と差別化させるキーワードが一体となって記憶させることで可能になります。私たちの名前がある特定のゾーンで、「○○」と言えば「○○工務店」と認識させることができているならばその工務店はブランド化できているといっていいと思います。「いい名前」というのは存在しますが、だからといってブランドになるわけではありません。ブランディングとは一朝一夕で完成するものではありません。長い時間をかけて一貫性のある体験・価値を提供し続けることで、そのブランド名が「特定の名前」に昇華されます。
ブランド構築にあたって重要な点はいい名前をつけること

会社名やブランド名を簡単に変えることをお勧めしませんが、ブランディングが成功しやすい名前というのは確かにあります。ブランドとはお客さまの頭の中にブランド名と特徴的なキーワードをセットで覚えさせること。特徴的なキーワードはブランディングにおけるコアであり差別化の源です。ですので、名前そのものキーワードを表現する名前であれば、それが1番いいです。名前がブランドキーワードとリンクしていることが1つめの条件になります。
ブランディングにおける「いい名前」の条件とは…以下の2点があげられます。
①差別化の特徴をとらえていること、それがパワフルであること
②覚えやすいこと、わかりやすいこと
先にも記しましたが、「私たちは○○の住宅をやります」、「私たちの建築は○○です」など、絞り込んだ特徴とリンクする名前がベストです。社名を聞いただけで、どんな建築をつくるのかが想像できる名前が素晴らしいと思います。反対にブランディングに適していない名前は「総称的」、「抽象的」な名前をつけることです。ブランディングは全方位に向けて発信すると失敗します。思い切った絞り込みが必要です。総称的な名前は何も伝えません。範囲が広ければ広いほど、そのパワーは弱まります。特にブランディング創成期は自分たちのやれることを厳選し、強みを活かし、サービス・商品を絞り込む勇気が必要です。何度も同じことを言いますが、ブランディング成功の最短ルートは勇気をもってフォーカスし、その特徴を「名前」にする。顧客にとっては商品そのものがブランドです。つくっている家そのものをイメージさせる会社名になることが、ブランド工務店になるということです。
人々の頭の中で認識する対象は文字ではなく音声

2つ目の条件も重要です。「わかりやすさ」とは何か?。まず、「私たちは知られていない」ということを前提とします。ですから、名前を聞いて「何をやっている会社か?」、「どんな住宅をつくっている会社か?」が分かることが1番良いです。これは条件①でお伝えしたことです。その次に「日本語表記」をお勧めします。昨今、英字表記の名前が多いです。確かに英字はオシャレですし、ブランド戦略には適しているかもしれません。が、「わかりやすさ」からは1拍遅れます。あくまで一般的にですが、人は英字を読む前に一瞬理解が遅れます。その分「わかりやすさ」が遠のきます。加えて、英字表記の会社が多いですから、なおさら差別化のためにも日本語表記がよいです。
「わかりやすさ」もう1つのポイントは「短さ」と「リズム」です。一般的に言ってブランド名はできる限り短く覚えやすいものを求められます。「アップル」や「アマゾン」はその典型です。「リズム」とは耳心地です。名前と聞くと表記ばかり気にしがちですが、どちらかと言えば、名前の音に意識を向けるべきです。人は目で見るものよりも音声体感の方を記憶します。加えて、ブランドとは当事者がいないところで、第3者から第3者に伝えられるモノです。ブランドコミュニケーションは文字よりも音声で行われることが多いです。文字面よりも名前の音の響きにこだわってネーミングするのはどうでしょうか。
企業名とブランド名を同時に使う場合、企業名はあくまでも脇役

ブランド戦略において常に悩みの種となるのが、それは商品ブランドなのか?企業ブランドなのか?どちらのブランドを育てるのかという問題です。結論から言えば、特に工務店ブランド戦略は企業ブランドを育成すべきです。いくつか理由はありますが、第一に過去を振り返ってみても、建築会社・住宅会社で商品ブランドから成功した例がないからです。いくつかあったとしてもそれはまず、企業ブランド認知成功後の話です。ファッションブランド・小売ブランドの商品ブランド戦略は確かにあります。が、それも企業ブランドを育てるための段階的なブランディングです。早い話、すべては企業ブランドのためにやっているのです。
名前において会社名とは別にブランド名をつくりブランディングを行っている場合があります。その場合、企業名は脇役に過ぎません。限りなく、存在を消すべきです。ブランドとは名前のことです。1つの名前の良質な認知を育てるためにどれだけの時間とお金がかかることでしょう。名前を1つに絞り、強いメッセージを発信し続けなければブランド戦略は上手くいきません。そういう意味で言えば、ベストなブランド戦略は企業名をそのままブランド名として使う方法です。物理的・機能的には、ほとんど差のない商品が「特定の名前」を名乗るだけでその何倍かの価格で売れるのがブランドです。ブランドとは普通名詞に代わって使うことのできる固有名詞なのです。