
企業の存在意義は商品そのものではない
「会社とは社会に役立つ装置である」。この言葉には、企業の存在意義と未来のビジョンが凝縮されています。私たちは日々、「経営」「利益」「売上」「成長」といったキーワードに追われがちです。しかし、その根底にあるべき問いは常に一つ。「この会社は、社会に対してどんな価値を提供しているのか?」ということです。これは企業の規模にかかわらず、すべての経営者、スタッフが向き合うべき本質的なテーマです。経済活動の本質は「価値の交換」。企業活動とは、単なる「モノを売ること」ではありません。社会にとって価値あるサービスや製品を創り出し、それを必要とする人に届ける。そこにお金という形で評価が返ってくる。この「価値の交換」こそが経済活動の根本です。
では、「社会に役立つ」とは具体的にどういうことなのでしょうか?困っている人を助ける不便を解消する豊かな暮らしを実現する安全・安心を提供する新たな文化や感動を創造する。たとえば、住宅会社であれば「住文化の質を上げる」ことが社会的価値になります。それは単に家という“商品”をつくることではなく、住まい手の未来を支える“装置”を社会に提供しているとも言えます。

社会から必要されなくなると会社はなくなる
ビジネスの世界では、利益は当然重要です。しかし利益は目的ではなく、“結果”です。本当に社会に役立っていれば、そこには自然とお金が循環します。誰かの課題を解決すれば、感謝とともに対価が支払われ、企業は継続的に活動することができます。つまり、利益とは「社会にどれだけ役立ったか」という価値のバロメーターです。この視点に立てば、短期的な売上や数字だけに一喜一憂するのではなく、「どんな未来に貢献しているか?」という長期的視野を持って経営を考えるようになります。
社会に貢献する「装置」としての企業「装置」という表現には、非常に示唆的な意味が含まれています。機械の装置は、目的に応じて動くことで成果を生み出します。同様に、企業も社会における“装置”として、機能し続けることで社会に価値を生み出していく存在です。ただし、機械の装置が定期的なメンテナンスやアップデートを必要とするように、企業もまた、常に変化し、見直し、社会との関係性を再構築し続ける必要があります。顧客ニーズの変化社会課題の複雑化テクノロジーの進化働き方・価値観の多様化これらに応じて、企業という装置もチューニングされ、再設計されなければなりません。そうでなければ、やがて社会からの必要性を失い、停止してしまいます。会社が倒産する理由はシンプルに社会から必要されなくなったということです。

会社は人を成長させるという装置
ブランドとは「社会との約束」。近年、企業ブランディングが重要視されています。それは単なるロゴやデザインの話ではなく、「この会社は社会にどう役立とうとしているか」を明文化し、発信し、実行していくという姿勢の表れです。この会社が存在することで、地域にどんな価値が生まれるのか自社の製品・サービスは、誰の、どんな困りごとを解決するのか働く人にとって、どういう意義があるのかこれらを明確にし、行動に落とし込んでいくことで、ブランドは磨かれていきます。社会との約束を果たすために、会社は常に動き続ける「装置」である必要があります。
会社にはもう1つ装置として重要な役目があります。「人を育てる装置」であることです。自分の仕事が、どこかで誰かの役に立っているという実感があるかどうか。それが働くモチベーションを大きく左右します。たとえば、職人が丁寧に家を建てることで、家族が安心して暮らせる空間が生まれる。事務スタッフが正確な書類を処理することで、顧客との信頼が築かれる。営業担当がヒアリングに真剣に向き合うことで、最適な提案が実現する。「社会に役立つ装置」としての会社には、スタッフ一人ひとりの誇りと責任が宿っているのです。願わくば、その会社で仕事した経験がスタッフの成長につながり、さらに大きな社会貢献を生む存在になることが望ましいです。

役に立っていると想いが背中を押してくれる
経営者の視点に立ってみます。会社をつくる、続ける、伸ばす…そのすべての判断は、「社会にどう役立つか?」という問いに基づくべきです。売れるかどうか?儲かるかどうか?注目されるかどうか?、これらももちろん重要です。しかし、その前に「この事業は社会に貢献しているのか」、「人が育っていく場になっているのか」という課題を解決していなければ、やがて持続性を失ってしまいます。何をやっても上手くいかないとき、トラブル続きで靄がかかっているときこそ、シンプルに考えるべきです。私たちがやっていることは誰かの役に立っている。これこそが会社を経営していく支えになっています。
会社とは箱です。そこに入って、新しい価値を知る。そこに入って、人は成長する。たとえ小さな会社でも、地域にとって欠かせない箱になる。この2つの装置としての役割が会社の誇りそのものです。そんな「装置」としての誇りを持てる会社こそが、これからの時代に選ばれるはずです。会社とは、社会に役立つ装置である。このシンプルな言葉を、理念ではなく「行動指針」として掲げること。それこそが、会社の存在意義です。