
「規模の経済」と「範囲の経済」
工務店経営を考える上で、「規模の経済」と「範囲の経済」は、数字マネジメント面でも、ブランド戦略面でも極めて重要な概念です。しかし、住宅業界ではこの二つを曖昧に理解したまま語られるケースが多い。大手ハウスメーカーは「規模の経済」を最大化しやすいですが、地域工務店はそれを取りに行けば行くほど、自らの強み(顧客体験・密度・深度)をむしろ崩すことになります。
一方で工務店は「範囲の経済」を活かしたブランド形成に向いていて、そこを戦略的に言語化し、経営構造として設計できた時、強さは一気に跳ね上がります。この違いを正しく理解することは、「大手と同じゲームで戦わない」という工務店戦略の根幹になります。

規模の経済とは何か
規模の経済は「量が増えるほど一件あたりのコストが下がる」構造です。仕入れ交渉力が高まる。大量発注により単価が落ちる。標準化・マニュアル化により人件費コストも下がる。広告も同じクリエイティブで広域大量投下できる。数字は圧倒的に強い。これはハウスメーカーが最も得意なフィールドです。
住宅は巨大で高単価なので「スケールを効かせやすい産業」でもあります。だからメーカーは規模の経済の典型業界として教科書にもよく書かれます(低コスト化の伸び代が大きい)。その結果、原価率や営業利益率が安定しやすく、金融的評価でも強くなる。
しかし、工務店はここを追求し過ぎると危険な状況になります。大量生産前提になると設計の自由度を削る方向に流れ、顧客の住宅体験価値が薄まる。そして「どこでも買える商品」に寄り、地域工務店の本来的優位性が消える。“規模で勝とうとする”という思考が既に罠としてそこにあります。

範囲の経済とは何か
範囲の経済は「扱う領域が広いほど、一件あたりの価値創出効率が上がる」状態です。
・OBメンテ / リフォーム
・不動産仲介 / 土地探しサポート
・商品企画 / 家具 / 造作
・住まいの学校 / 勉強会 / 体験コンテンツ
・SNSメディア / 地域雑誌 / 暮らしブランド編集
これらはすべて住宅を中心とした「生活文脈の接点」です。工務店はもともと顧客関係深度が深い。顧客一人当たりの顧客生涯価値を最大化しやすい構造にあります。住宅は単発の一発購入で終わるのではもったいない。10年、20年と関係が続く。だから領域を広げやすい。領域を広げれば広げるほど、他社参入が難しくなる「独自の関係コスト障壁(新規参入企業が市場に参入する際に既存企業よりも不利になるコスト)」ができます。ここがメーカーとは違う勝ち筋です。そして工務店のブランド構築に最も直結する力となります。

工務店は「規模の経済ではなく、範囲の経済」で勝つ
工務店がスケールを追うと、商品同質化と勝負フィールドの大手化が進みます。そこに勝ち筋はありません。それよりも「関係の密度による深い顧客価値」こそが工務店の経済合理性を生みます。範囲の経済は、単にサービスを増やせという話ではありません。「顧客の生活の文脈」「地域の文化」「価値観」を中心に事業領域を構築するということです。結果、ブランドは「会社の資産」になっていきます。
工務店は「規模」で勝つ必要はありません。「範囲」で勝てる産業であす。むしろ領域を戦略的に設計しない限り、地域工務店ブランドは育ちません。規模の経済は大手ハウスメーカーの戦略。範囲の経済こそ工務店の経営戦略です。そしてその領域をストーリー化し、言語化し、体験化し、ブランドにしていくこと。それが最も強い経営戦略になります。今の時代、工務店は「大きさ」ではなく「関わりの深さ」を軸に置くことが大切です。